グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードはいいフード?

要約
  • オオカミが犬へと進化したのは農耕文化のはじまりと同じ時代
  • 犬は人との暮らしを通じて穀物を消化できる雑食動物に変化した
  • ドッグフードの製造には必ずデンプン(穀類、イモ類、豆類)が必要
  • 穀物使用の有無には意味がない。デンプンの質が大事なポイント

犬に穀物は必要ない?

グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードが目につくようになってから4~5年ほど経つでしょうか。専門店のペットフード売場を見ると、価格が高めのフードの棚の多くは「グレインフリー」が占めるようになってきましたね。インターネットでおすすめフードを検索してみても、グレインフリーのフードがたくさん挙がってきます。こんなにも多くのグレインフリーフードが販売されているということは、穀物が犬の体に悪いということなのでしょうか?

グレインフリーのドッグフードの多くは、こんなストーリー仕立てで飼い主にアピールしてきます。
いわく、

犬って元々はオオカミでしたよね。犬の祖先であるオオカミの食事を想像してみてください。彼らは群れで生活し、自分たちよりも体の大きな獲物をチームプレーで捕えてその肉を食べていました。肉食の彼らは草や穀物を食べることはありません。つまり、犬という生き物は本来肉食動物であり、穀物を食べることはなかったのです。ところがどうでしょう?現代のドッグフードの多くは小麦やとうもろこし、米などの穀類がふんだんに使われています。本来肉食の犬たちは穀物の消化が苦手。だから私たちは、犬本来の生物学的に正しい食事=穀類不使用のグレインフリードッグフードをおすすめします。

オオカミ

こんな話をされると「確かにそうだなあ」と思ってしまいますよね。でも、ここでちょっと考えてみましょう。農耕の歴史を辿っていくと、稲作(米)が始まったのはいまから約1万年前の中国・長江流域、また、現在のシリア周辺の遺跡で発見された世界最古クラスのライ麦の農耕跡は約1万1千年前のものとされています。こうした農耕文化がはじまる前、私たち人間も米や麦、とうもろこしなどの穀物を常食していたわけではなく、狩猟採集で得た食糧(野生動物の肉や木の実など)を食べていました。では、元々穀物を食べていなかった私たち人間にとって、いまも最適な食事はグレインフリーなのでしょうか?そんなことはありませんよね。農耕文化の発達とともに人間の主食は穀類となり、その消化吸収にも適応してきました。そして、ここで注目してほしいのは、犬の起源はこの農耕文化がはじまったのと同じ約1.5~1万年前と言われていることなのです。

世界最古のドッグフードは人間の「おこぼれ」

農耕をはじめた人間はその土地に定住し、集落を形成します。オオカミが人間のそばで暮らし始めたのはこのころ。なぜなら、人間の集落には常に食べ残しの「おこぼれ」があったからです。このおこぼれ目当てに寄ってきたオオカミの中で人間になつき、人が分け与えるおこぼれ=穀類を食べてうまく消化吸収できるようになった個体が犬になったのだと考えられます。きっと、人類が作った世界最古のドッグフードは人間の食べ残しの穀物だったのではないでしょうか。

穀物の主成分は「デンプン」と呼ばれる糖質ですが、デンプンは生のままでは消化できません。このデンプンは、水を加えて加熱することで糖の粒子がほぐれて分解されやすい「アルファ化」という状態になります。このアルファ化されたでんぷんを摂取すると、アミラーゼという消化酵素の働きで体内に吸収される形に分解されます。生のお米は消化が悪くても、炊いたご飯が胃腸で消化吸収されるのは、こういうこと。この仕組みは人も犬も変わりません。市販のドッグフードに含まれるでんぷんは製造工程で加熱することによりアルファ化されており、すい臓から分泌される膵液に含まれるアミラーゼで吸収されやすいように分解されます。

2013年にスウェーデンのウプサラ大学を中心とする研究チームが、犬とオオカミのDNA配列を比較調査したところ、犬が膵液に含まれるアミラーゼは、オオカミのそれより28倍も活性(酵素が働く力)が高いことがわかりました。
参照:http://www.nature.com/nature/journal/v495/n7441/abs/nature11837.html
もうおわかりですね、私たちの目の前にいる犬はオオカミとは別の生き物。1万年にわたる人間との暮らしを通じて、穀類も消化できる雑食動物へと変化してきたのです。

グレインフリードッグフードの「嘘」

一般的なドッグフードは”カリカリ”とも呼ばれるドライフードのこと。このドライフードを製造するためには「デンプン」が欠かせません。デンプンがないとドライフードの粒の形が作れないからです。さて、穀物の主成分が「デンプン」というのはすでに述べたとおりですが、では穀物不使用であるグレインフリーのフードはどのようにして粒の形を作っているのでしょうか?

実は、グレインフリーのドッグフードにもデンプンが豊富に含まれています。繰り返しになりますが、デンプンがないとドライフードを作ることができないからです。では、グレインフリーフードの原材料でデンプン源となっているのは何でしょう?それは、ジャガイモやタピオカなどのイモ類、あるいは各種の豆類です。穀類ではないデンプン源を使って作られているのがグレインフリーのドッグフード。単に穀類がイモ類や豆類に置き換えられただけで、成分的には変わりありません。

オオカミは確かに穀物を食べていなかったでしょうが、同様にイモや豆も食べていなかったでしょう。それなのに、いかにも「これまでのドッグフードとは違う、犬本来の食事に近いフード」というイメージ戦略で販売されているのがグレインフリーフードの真実なのです。

グレインフリーのドッグフード

デンプン源の「質」に注目!

大事なのは、穀物を使っているかどうかではありません。ドッグフードには穀物やイモ類、豆類といったデンプン源が必ず必要ですので、重要なのはそのデンプン源の「質」。同じデンプン源でも犬が消化しやすいデンプン、その逆に消化が苦手なデンプンというのがあります。たとえば、犬はアルファ化された米のデンプンをほぼ100%消化できますが、ジャガイモの消化はあまり得意ではありません。また、摂取した食品が体の中で血糖値を上げるスピードを表したGI値(グリセミック・インデックス)という指標がありますが、じゃがいもやタピオカ、白米、とうもろこしなどが高GI(血糖値が上がりやすい)なのに対し、豆類や大麦、玄米などは低GI(血糖値が上がりづらい)なので、肥満や糖尿病のリスクを低くできる可能性があります。

まとめ
肉食動物のオオカミを祖先に持つ犬にとって最適なドッグフード=グレインフリーという噂は誤り。グレインフリーのドッグフードの中にも良い商品もあれば、そうでもない商品もあります。ドッグフードの製造には必ずデンプン(穀類、イモ類、豆類)が必要ですから、大事なのは、穀物を使っているかどうかではなく、デンプン源となっている原材料の質。犬にとって消化しやすいデンプン源、血糖値の上がりづらい低GIのデンプン源を使用したフードがおすすめです。
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【ドッグフード専門家のひとこと評価】
ネットで話題のグレインフリードッグフード

カナガン
ネットで話題になったイギリス産のグレインフリーフード。主なデンプン源はサツマイモ・エンドウ豆・ジャガイモで、一般的な配合です。製品成分がたんぱく質33%、脂質17%というのは、海外産のグレインフリーフードらしく高たんぱく・高脂肪。どちらかというと若くて活発な犬に向いていると思います。海外フードをそのまま輸入してあるので致し方ないですが、大きめの2kgサイズしかないのが少し残念。
モグワン
カナガンの輸入代理店が日本向けに企画したオリジナルのグレインフリーフードが「モグワン」。カナガンと同じイギリスの工場で製造されているようですが、原材料や成分バランスにもオリジナリティがあり、日本の犬事情を考慮している感じがしますね。主なデンプン源はサツマイモ・エンドウ豆・レンズ豆・ひよこ豆。おそらくカナガンよりもモグワンの方が低GIに仕上がっているのではないかと思います。たんぱく質28%、脂質12%で、成分バランス的にもカナガンより使いやすい印象(仔犬からシニアまで)。1.8kgとカナガンよりちょっぴり小さめサイズなのも良いところ。
ナチュロル
国産のグレインフリーフードというのは珍しいですね。デンプン源はタピオカとさつまいも。グレインフリーフードとしては一般的です。目をひくのは生肉(牛肉、鶏肉、馬肉、魚)が55%配合されているということ。これはなかなかの高比率です。肉類の食物アレルギーがなければ良い選択肢かもしれません。脂質7~9%とかなり低脂肪なので、運動量の落ちたシニア犬や太り気味の犬に向いてますね。1袋850g入りというのは小型犬でも使いやすいと思います。

5月11日 10:46